親族の基本構造(クロード・レヴィ=ストロース著)
(福井和美訳、青弓社)
ピエール・ドゥ・ロンサール |
本書は、主として未開社会の観察と観察結果に対する著者独自の解釈法に基づいて、人間の社会を作り上げている原理を解明しようとしている。観察は、著者自身の体験もあるが大部分は他者の厖大な研究論文等であり、独自の解釈法とは、構造主義に基づいたものである。構造主義については、本書においてソシュール言語学との直接的関連性が述べられてはいるが、人類学についてどのように適用されているだろうか。多分それは、多様な未開社会における現象や時には旧約聖書や神話の記述との間に、分析された要素間の因果関係や継時的進化論などでは捉え損なうような、共通する普遍的なもの、構造がある、というようなものであろう。
この構造を直観する部分が著者の天才的なところだと思う。例えば、数多ある社会現象の中からインセスト禁忌を取り出してその本質を抉るところなどは冴えたる部分である。因みにインセスト禁忌は生物学的原理に由来するものではなく(もしそうなら、社会が禁忌を作る必要もなく守られるから)、社会的構造原理に由来する。もう少し深読みすると、著者は、社会は開かれているという本質を持ち、閉鎖された社会は存在できない、と洞察したのかもしれない。
著者は、人間社会を作り上げている原理は「女性の交換」にある、と言う。もう少し説明してみると、婚姻の本質は交換にあり、婚姻の形式は交叉イトコ婚(性の異なる兄弟姉妹の子供達同士の結婚)であって、交換は互酬構造に基づいており、女性は交換対象であって、しかも財で代替できない本質的価値を持ち、完全に記号と化してしまう語とは逆に、記号でありつつ同時に価値でもあり続けるものである、となる。こう言われても、普通はピンと来ないが、数多の未開社会の奇異とも思える実例を知り、その構造が現代にも存在するという事に気付くだけでも面白いと思う。