2022年8月13日土曜日

エマニュエル・トッド『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書kindle版2022/3/23 大野舞訳 抜粋)

夢香
この文章は、『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書kindle版 大野舞訳)に収録されている、エマニュエル・トッドの四篇の著作のうちの「第一篇 第三次世界大戦はもう始まっている(2022/3/23収録)」の要約です。(⇒ )は私の補足。

⚫印は、本文の見出し

第一篇 第三次世界大戦はもう始まっている

⚫”冷酷な歴史家”として

 戦争の悲惨な映像を目にするのは一人の人間として耐えがたいが、本書は”冷酷な歴史家”として書いたものであることを理解してほしい。

⚫『戦争の責任は米国とNATOにある』

 ロシアによるウクライナ侵攻の戦争について、感情に流れているように見えるヨーロッパとは異なって、アメリカでは地政学的視点からも論じられている。その代表格、シカゴ大学教授の国際政治学者ジョン・ミアシャイマーは「戦争の責任は米国とNATOにある、なぜなら、ウクライナのNATO入りは絶対に許さないとロシアは明確に警告を発してきたのにもかかわらず、アメリカとNATOがこれを無視したからだ」と述べている(著者も同感だと)。

⚫ウクライナはNATOの“事実上”の加盟国だった

 ジョン・ミアシャイマーはもう一つの重要な指摘をしている。「ウクライナのNATO加盟、つまりNATOがロシア国境まで拡大することは、ロシアにとっては、生存に関わる『死活問題』であり、そのことをロシアは我々に対してくり返し強調してきた」と。私はこの点にも同意するとともに、ヨーロッパを戦場にしたアメリカに怒りを覚える。

⚫ミュンヘン会談よりキューバ危機

 西側メディアでは「ウクライナ問題でプーチンと交渉し、妥協することは、融和的態度で結局ヒトラーの暴走を許した1938年のミュンヘン会談の二の舞になる」と日々語られている。しかしミアシャイマーは、歴史のアナロジーで言えば「ミュンヘン会議」より1962年の「キューバ危機」になぞらえるべきだと言い、それには、冷戦終結後の歴史を振り返る必要があると説いている。

⚫『NATOは東方に拡大しない』という約束

 冷戦後、NATOはロシアに対して「東方に拡大しない」と約束したが、この約束は破られた。画期は二つあった。一つ目は1999年、ポーランド、ハンガリー、チェコのNATOへの加盟。二つ目は2004年、ルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニアのNATOへの加盟。この歴史の少し詳しい内容は下記。

・1990年2月9日、アメリカのベーカー国務長官はソ連のゴルバチョフ書記長に「NATOは東方へはインチたりとも拡大しないと保証する」と約束し、翌日には西独のコール首相が「NATOはその活動範囲を広げるべきではないと考える」と伝えた
・2008年4月のブカレストでのNATO首脳会議で「ジョージアとウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことが宣言され、その直後、プーチンは緊急記者会議を開き「強力な国際機構が国境を接するということはわが国の安全保障への直接的な脅威とみなされる」と主張した。つまりこの時点でロシアは明確なレッドラインを示して、警告を発した
・2014年2月22日、ウクライナで「ユーロマイダン革命」と呼ばれる親EU派による「クーデター」が発生してヤヌコビッチ政権が倒される
・これを受けて、ロシアはクリミアを編入し、親露派が東部ドンバス地方を実効支配した。それは住民の大部分が、この「クーデター」を認めなかったからだ

⚫ウクライナを「武装化」した米国と英国

 ミアシャイマーは、ロシアの侵攻が始まる前の段階で、すでにウクライナは「米英の衛星国」「NATOの”事実上”の加盟国」になっていた、と指摘している。実際、米英はすでに大量の兵器を送り、軍事顧問団を派遣し「ウクライナ」を武装化していた。

⚫「手遅れになる前にウクライナ軍を破壊する」が目的だった

 ロシアにとって、クリミアとドンバス地方をウクライナが奪還することは看過できないことだった。ロシアがウクライナに侵攻した目的は、それか可能になる前にウクライナ軍を破壊することだった。

⚫ウクライナ軍が抵抗するほど戦争は激化

 ミアシャイマーは、ウクライナ軍の成功の一つ一つが、ロシアにとって「生存をかけた問題」であるこの戦争を、より暴力的な方向へと向かわせると述べているが、私も同感だ。

 マリウポリが見せしめのように攻撃されていたのは、「アゾフ大隊」の発祥地だからだ。つまり、「アゾフ大隊」は、 2014年に白人至上主義思想の外国人義勇兵も含めた民兵組織として発足したネオナチ極右勢力なのである(文春編集部注:日本の公安調査庁も「ネオナチ組織がアゾフ大隊を結成した」としていたが、現在はHPから削除されている)。

 プーチンの言う「非ナチ化」とは、「アゾフ大隊」を叩き潰すという意味だ。

⚫米国にとっても「死活問題」に

 ミアシャイマーは「ロシアはアメリカやNATOよりも決然たる態度でこの戦争に臨むので、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利するだろう」と結論する。しかし、私は、この問題はアメリカにとっても「死活問題」となるから、ロシアの勝利はないと考える。

 アメリカにとって「死活問題」となる理由は、もしロシアが勝利するようなことがあれば、アメリカ主導の国際秩序や世界経済システム全体が崩壊する可能性があるからだ。

⚫我々はすでに第三次世界大戦に突入した

 ウクライナ問題は、元来はソ連崩壊後の国境の修正という「ローカルな問題」だった。しかし、冷戦後のアメリカの対ロシア戦略は「グローバル化=世界戦争化」という結果をもたらしてしまった。アメリカの地政学的思考を代表するポーランド出身のズビグネフ・ブレジンスキーは、「ウクライナなしではロシアは帝国になれない」と述べている(邦訳『地政学で世界を読む---21世紀のユーラシア覇権ゲーム』日経ビジネス文庫)。著者は「我々はすでに第三次世界大戦に突入した」と言う。

⚫ 「20世紀最大の地政学的大参事」

 プーチンが「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んでいる事態は次のようなことだ。「共産主義体制の終焉」と「(ソ連という)国家の解体」という二重の意味を持っていた「ソ連崩壊」は、直後の「無政府状態」がために、ソ連時代に人工的に作られた国境がそのまま尊重される結果となったこと。

 (⇒補足すれば、西側諸国が、下記ような事実を評価しないばかりか、ロシアという民族・国家を貶めているというプーチンの意識があるのだろう)

・ロシアは、人類史上最も強固な全体主義体制を自らの手で打倒した
・東欧の衛星国の独立を受け入れ、ソ連の解体も受け入れた
・バルト諸国、カフカスや中央アジアの諸共和国の独立も平和裏に受け入れた
・「スラブ」民族の核心部である「広義のロシア」、つまりロシア(大ロシア)、ベルラーシ(白ロシア)、ウクライナ(小ロシア)、の分裂すらも受け入れた。つまり、ベルラーシとウクライナが分離独立した

 ロシアによるクリミア編入もドンバス地方における親露派実効支配の支援も、「人民自決権」に照らせば、それなりの正当性を持っている。しかし西側諸国においては、「とんでもなく忌まわしいこと」とみなされている。

⚫ 冷戦後の米ロ関係

 冷戦後のロシアは「西側諸国との共存」を目指したけれども、国家経済面においても軍事面においても、ロシア人はアメリカを中心とする西欧に裏切られた。

 ソ連崩壊直後、欧米は新自由主義者の助言者を送り込み、1990年から1999年までの間、アメリカ人顧問の助けを借りて経済自由化の乱暴な企てが推進されたが、ロシア経済と国家を破綻させただけだった。そのため、ロシアがプーチン主導で経済的に立ち直るのに、多大な努力を要した。

 アメリカは「NATOは東方に拡大しない」という約束は守らず、結局、ロシアを軍事的にも囲い込んだ。軍事的緊張を高めてきたのはロシアではなくNATOの方だった。

⚫ 戦争前の各国の思惑

 ソ連崩壊後のアメリカの思惑は、ロシアをアメリカに対抗できない従属的な地位に追いやることであり、そのためにウクライナを西側に引き入れることが効果的だと考えていた。一方、ロシアの思惑は、アメリカに対抗できる大国としての地位を維持することであり、ウクライナがロシアから引き離されることは、自国の死活問題と考えていた。

 ロシアが明確に示したレッドラインがアメリカを中心とする西側諸国から無視され続けている状況下において、アメリカとイギリスによるウクライナの「武装化」がこれ以上進み、軍事的にもロシアから引き離されることを恐れたロシアはウクライナへの侵攻を決断した。

 今の状況は、「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と見ることができるが、地政学的により大きく捉えれば「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできる。

⚫ 超大国は一つだけより二つ以上ある方がいい

 一つの国家が、誰もブレーキをかけられない状態で世界全体に絶対的な支配力を及ぼすのが、よいことであるはずはない。超大国は一つだけより二つ以上ある方が、世界の均衡が取れるのだ。冷戦の勝利に酔うアメリカが、「全世界の支配者」として君臨するのを阻止できる唯一の存在は、ロシアだった。

 2003年、イラクに対してアメリカが独善的に行動したときも、”西側の自由な空間の保全”に貢献したのはロシアだったし、スノーデンをあえて受け入れることで”西洋の市民の自由の擁護”に貢献したのもロシアだった。そのことにわれわれは感謝すべきだ。

 第二次世界大戦で、ソ連は2000万人以上犠牲を出しナチスドイツの悪夢からヨーロッパを開放することに貢献した。だが、冷戦後の西側の振る舞いはその歴史を忘れたかのようだ。

 それどころか、ロシアが回復に向かうにつれて「ロシア嫌い(ロシア恐怖症)」の感情が強まり、プーチン率いるロシアの権威主義的民主主義体制が、それ自体として憎しみの対象となったことには唖然とする。

⚫起きてしまった事態に皆が驚いた

 注目すべきは、第一次世界大戦の時のように、実際に戦争が始まってしまった事態に皆が驚いたことだ(⇒想定外のことが起こっていること自体が注目に値する、と)。

 ウクライナ人は「アメリカやイギリスが自分たちを守ってくれる」と思っていたのに、そこまでではなかったと驚いているはずだ。

 米英の軍事顧問団はポーランドに逃げてしまい、ウクライナ人は大量の武器を手にしつつも単独でロシアと戦っている。要するに、アメリカとイギリスはウクライナ人を”人間の盾”にしてロシアと戦っているのだ。

 現在は、米国とウクライナは固い絆で結ばれているように見える。だが、長期的に見て、この”裏切り”によってウクライナ人の反米感情が高まる可能性は否定できない。

⚫米国の誤算

 アメリカの戦略家達の文献からは、彼等が真面目に考えているのかどうかが分からなくなる。だが、「戦争がアメリカ文化の一部になっている」ことはみえてくる。アメリカは第二次世界大戦後も常に戦争をしてきた。アメリカには「他国を侵略することも普通のことだ」と考える基盤がある。

 アメリカがこれまで行ってきた戦争の相手は弱小国だったが、今回は大国ロシアが事実上アメリカを敵に回している。アメリカは、プーチンがここまでの決断をして大規模にウクライナに侵攻し、アメリカ主導の国際秩序に正面から刃向かうとは思っていなかっただろう。

 アメリカの外交は、現在、混乱を極めている。一月前には「最大の敵」であったはずの中国に急遽協力を依頼し、厳しい制裁を科していたベネゼエラとの関係改善を急ぐなど、アメリカの動揺が窺える。

⚫ロシアにとっても予想外

 ロシアは、西欧諸国、とくにヨーロッパがこれほど強硬に出るとは予想してなかったはずだ。ロシアのエネルギー資源に依存するヨーロッパ(特にEUの中心であるドイツ)は、ウクライナ侵攻問題に本格的には介入できない、とロシアは考えていたはずだ。

 ロシアは軍事的にも自信を深めていた。軍事技術においてアメリカに対して一定の優位に立っているだけでなく、「アメリカ軍の真の実力」には疑問符がついているからだ。「空母キラー」と呼ばれる超音速ミサイル分野では、アメリカに4年は先んじていると言われているし、そのそも「空母」も時代遅れの代物である可能性が高い。また、ステルス機F35の実践での有効性にも疑問がある。さらにロシアは核大国なのだ。

⚫共同体家族のロシアと核家族のウクライナ

 ロシアの最大の誤算は、ウクライナ社会の抵抗力を見誤ったところだ。人類学から見れば、ウクライナとロシアは異なる社会で、私の専門領域である家族システムで言うと、ロシアは「共同体家族」社会である。一方、ウクライナは「核家族」社会なのだ(データは断片的だが、19世紀の歴史家アナトール・ルロア=ボーリューの『ロシア皇帝の帝国』(1897年~1898年)の描写を読めば、そのことが分かる)。

 共同体家族社会は、平等概念を重んじる、秩序だった権威主義的な社会で、集団行動を得意とする。こうした文化が共産主義を受け入れ、現在のプーチン大統領が率いる「ロシアの権威主義的民主主義」の土台となっている。だから西側メディアが、「戦争を引き起こした狂った独裁者」としてプーチン一人を名指しして糾弾するのは端的に言って間違っている。

 だから、プーチンが「ロシア人とウクライナ人の一体性」を言い、ウクライナ人が「自分たちはロシア人と違う」と言うのは筋が通っている。プーチンのような人物が権力の頂点にいるのは、ロシア社会自身が、彼のような権威主義的な指導者を求めているからだ。

 他方、少なくとも中部ウクライナ社会(「小ロシア」地域)は核家族社会だったから、英・仏・米のような自由民主主義的な国家に見られる家族システムであり、その点を取り出せば”西側の国”と見ることも出来る。

⚫『国家』として存在していなかったウクライナ

 「民主主義」が成立するには、まず「国家」が建設されていなくてはならない。また、民主主義は「強い国家」なしには機能しない。個人主義だけではアナーキーとなって、民主主義は機能しない。ところが、現在のウクライナと言う地域には、「西部」「中部」「南部・東部」の三つの非常に異なる地域があって、ソ連が成立するまで、そこには「国家」が存在しなかった(⇒ソ連成立後、ウクライナとベルラーシはロシア連邦とは区別されて国際連合に加入しているが、実質ソ連の傘下にあって、国家とは言えない)

 「西部」はリヴィウを含む地域で、「ユニアト信徒(ウルライナ東方カトリック教会の信徒。儀式は東方典礼を受け継ぎつつもローマ教皇の首位権を認める)ウクライナ人」が住んでいて、ロシアからは、ほぼポーランドとみなされている地域。

 「中部」はキエフ《地名変更「→キーウ」》からドニプロより少し先まで広がる「小ロシア」と呼ばれる地域で、「ギリシャ正教のウクライナ人」が住んでいる地域。ここは、ウクライナ語を話し、核家族構造が見られる言わば”真のウクライナ”。

 「南部・東部」は黒海沿岸地域とドンバス地方からなる、プーチンが歴史に倣って「ノヴォロシア(新ロシア)」と呼んでいる、ロシア語で話すロシア系住民が住んでいる地域。

⚫『親EU派』とは『ネオナチ』

 2014年の「ユーロマイダン革命」(ヤヌコビッチ政権を、プーチンに言わせれば違法に倒したクーデター)を最も積極的に指導したのは、「新EU派」と西側メディで好意的に報じられている勢力だが、実はウクライナの極右勢力だ。この勢力は西部ウクライナにおいて最も盛んであり、かってナチスドイツ側についた歴史を持つ「ネオナチ」だ。

 中部ウクライナの人々はロシアに対して警戒感を持ちながら、西部ウクライナ人の極右思想に距離を置いていた。

 クリミアやドンバス地方のロシア系住民は、「ユーロマイダン革命」をクーデターとみなしてこれを認めていない。だから、ロシアは住民投票を経てクリミアと編入し、親露派がドンバス地方を実効支配出来た。

⚫ネオナチと手を組んだヨーロッパ

 2014年2月、ヤヌコビッチ政権が倒される直前にドイツ、フランス、ポーランドの外相がウクライナのキーウに居た。これは、ウクライナの極右勢力とヨーロッパが手を結んだかのような振る舞いであり、この時点でヨーロッパはロシアとの潜在的な紛争状態に入った。

 ヤヌコビッチ政権崩壊以降、ウクライナ東部では、言語的・文化的にロシアに近い住民が攻撃に曝され、これをEUは是認した。この攻撃はおそらく武器を持って実行されたので、プーチンは「ウクライナに居るロシア人の保護」を主張した。

⚫家族構造とイデオロギーの一致

 「人種」「言語」「宗教」以上に、その社会のあり方を根底から規定しているのは、「家族」だ。40年ほど前に立てたこの仮説は『世界の多様性 家族構造と近代性』(日本語訳2008年藤原書店)に纏めてあるが、世界の各地においてこの仮定は有効だ。

 いずれの共産主義革命も、本格的に工業化する以前の「外婚制共同体家族」(父親と妻帯の息子たちが同居する家族)の地域で起きている(⇒ウクライナは共同体家族と異なる核家族)。表題にある「イデオロギー」は「政治経済体制」のこと。

⚫共産主義を生んだロシアの家族構造

 少し前の表題「共同体家族のロシアと核家族のウクライナ」で触れていた、『ロシア皇帝の帝国』(1897年~1898年)を読めば、ロシアは共産主義と親和性を持っているが、少なくともウクライナ中部(小ロシア)はそうではないだろう。

 『ロシア皇帝の帝国』から、ロシア革命以前のロシア農村社会の描写に関して著者が引用した部分の要点を下記した。

・家族は、父や長老の権威のもとにある家父長制の大家族である
・村落共同体は、ミール(自治集会)のもとにある
・家族や村落共同体が、人々を共同体生活に適応しやすいように育成してきた
・ムジク(農民)は仕事を引き受けると、特に村を離れると、すぐにアルテリ(自主的協同組合)をつくる
・アルテリは共産主義的傾向を持ち、連帯を実践する
・アルテリは、組合の自然発生的な形態、ロシア的な形態なのだ
・アルテリは、大家族か小さな共同体のようなもので、平等主義的で、村の親密な関係や家 父長的な風習を工場にもたらしている
・国家は、産業活動をも家父長的なものに保とうとする
・ムジクであれ経営者であれ、あらゆる階層のロシア人は、法律には敬意を払わないが、権威には敬意を払う
・この国では、どんなイニシアチブも上から降ってくることに慣れている
・この国が、ある日、国家社会主義の冒険的な道を歩み始め、ヨーロッパの最も民主的な諸国に追いつき、追い越すことがあっても、驚かないだろう

⚫家族構造の違いから生じたホロドモールの惨劇

 ホロドモールの惨劇は、スターリンが農業集団化を進めたときに、小ロシアでは思い通りには行かず、これを強行する過程で抵抗する農民の数百万人が人為的な大飢饉で死んだ史実(1932年~1933年)。(⇒この惨劇の家族社会的背景には次のような状況があった)

・ロシア人はウクライナ人を「少し劣ったロシア人」とみているところがある
・ピラミッド型社会のロシア人からすると、ウクライナ人は「自分勝手で、アナーキーで、ポーランド人みたいだ」とみえる
・外婚制共同体家族のロシア社会では、行き過ぎた個人主義には、おのずと抵抗を覚える
・帝政時代のロシア貴族は、長男を優遇する長子相続制を拒んでいる

⚫ボリシェヴィズムが初期から定着したラトビアの家族構造

 「外婚制共同体家族」と「共産主義」の一致は、ロシアの外でも確認できる。

・「外婚制共同体家族」のバルト三国は、ロシア革命に積極的に関わった
・ラトビアは1917年10月のクーデターで決定的な役割を果たし、レーニンの全幅の信頼を得、さらに共産党の政治警察の創設にラトビア人活動家が積極的に関与した
・1917年時点でのバルト三国におけるボルシェヴィズムの勢力は、その選挙結果から、家族構造に埋め込まれた共同体主義を見事に反映していた

⚫「ヨーロッパ最後の独裁者」を擁するベルラーシの家族構造

 ベルラーシ(白ロシア)のルカシェンコ大統領はヨーロッパ最後の独裁者」と呼ばれている。ベルラーシも外婚制共同体家族であり、1917年時点でボルシェヴィズムが活発であった地域で、今日ではロシア(大ロシア)以上に「権威主義体制」に執着している。

⚫「近代化の波」は常にロシアからやって来た

 ウクライナは、歴史的、社会学的にまとまりを欠いた地域で、なんらかの重要な近代化現象がここから生まれたことはなかった。

 16世紀から20世紀にかけて、ウクライナにとっての「近代化の波」は、何れもロシアから来た。「共産主義」も「共産主義の打倒」と「改革の波」も、モスクワで発生した動きが、先ずはロシア語でウクライナ各地に伝播していった。

 ウクライナは、ロシアという”中心”に対して、常に”周辺”として「保守的」な態度を示してきた。1917年から1918年にかけては、「反ボルシェヴィキ的」かつ「反ユダヤ主義的」な態度をとり、1990年以降はロシアより強い「スターリニズムへの執着」が見られる。

 ウクライナは「独自の推進力」を持っていないために、自らの独自性を主張し且つロシアから逃れるには、別の勢力の支配下に入る必要性が出てくることになる。アメリカやヨーロッパに近づいたのはそれが理由だった。

 ところが、ウクライナが地理的に西に位置し文化的にも西側近いと親近感を抱いて来た西側諸国は、1991年にウクライナが独立したことが持つ主たる意味を見誤まった。つまり、「モスクワとサンクトペテルブルグで進んでいる民主主義革命からウクライナが切り離された」ことを西側諸国は理解できなかったのだ。

⚫国家建設に成功したロシアと失敗したウクライナ

 ロシアは1990年代に危機の時代を迎えたが、国家の再建に成功した。それは「国家に依存する秩序」という伝統があったからだ。「国家によって完全に制御された軍隊」の再建にも成功した。

 ウクライナは、独立から30年以上経過しても十分に機能する国家を建設できていない。それは「国家」という伝統がなかったからでだ。軍隊も、アメリカやイギリスの支援なしには再組織化できなかった。

 ウクライナが国家建設に失敗したことに関しては、アメリカ以上に西欧諸国に重い責任がある。ドイツを始めとして西欧諸国は、ソ連時代の遺産としての高い教育水準を持ったウクライナから「安価で良質な労働力」を吸い寄せてきた。その結果、ウクライナは独立以来人口の15%を失って5200万人から4500万人に激減した。しかも本来ならば国家建設を担うべき優秀な若者が、よりよい人生をもとめて国外に出てしまった。ロシアの侵攻が始まる前から、ウクライナは破綻国家と呼べる状態だった。

⚫プーチンの誤算

 おそらくプーチンとしては、「母なるロシア」に回帰させることで、「破綻国家」である「小ロシア(ウクライナ)」の秩序を立て直そうとしたのだろう。しかし、回帰どころか「反ロシア」の感情がウクライナ社会を方向付ける一つの存在様式になってしまった。これが、ウクライナに侵攻したプーチン最大の誤算と言える。

 現在ウクライナの人々は、「自分の国のために死ぬことも出来る」と見られているが、この戦争が、ウクライナの人々に「国として生きる意味」を見出させたと言えるかもしれない。ウクライナで起きている事態は、全く新しいタイプの歴史的変動で、今後何十年もかけて深く分析されるべきだ。

⚫ロシアはすでに実質的に勝利している

 ロシアが奪った土地は、すでにウクライナ領土の20%から25%で、しかもこの地域にはウクライナ産業30%から40%もある。過去のヨーロッパの戦争と比較しても、今回のロシアの「戦果」は、ルイ14世やフリードリッヒ二世のそれより大きい程だから、西側メディアの報道とは異なり、ロシアはすでに実質的に勝利している。

 今後、手に入れたロシア語圏地域をロシアがどう制御していくのかという問題が生じるだろう。すでにウクライナの人々のアイデンティティーに組み込まれている「反ロシア」感情が残るだろうし、そのことは、プーチンがネオナチと呼んでいるウクライナの極右勢力であるアゾフ大隊にも多くのロシア語話者も加わっている事実によっても裏付けられる。

 それ以上に問題とすべきことは、今後「反アメリカ感情」が生まれてくるかどうかだ。アメリカはウクライナを裏切り、ウクライナを”人間の盾”としてロシアと戦っているからだ。

⚫西欧の誤算

 ロシアの侵攻は、特にドイツとフランスにとっては誤算だった。イギリスと違って、事前にロシアの侵攻を察知しておらず「まだ交渉は可能だ」と考えていたからだ。さらに、ウクライナのNATO加盟がロシアにとって「死活問題」であること、アメリカとイギリスによるウクライナ軍の武装化の程度について、十分な認識を持っていなかったからだ。

 西欧の人々は、まさかヨーロッパで戦争が起きるとは思っていなかった。現在の「ヨーロッパ人」は”戦争は遠い過去のこと”にしたがっているからだ。戦争が始まったとき、私は「ウクライナ人がヨーロッパ人なら、武器を持って戦わない」と思った。だから、ウクライナ人はヨーロッパ人ではなく「ロシア人」であったのであり、この戦争が暴力的な側面を見せているのは、”旧ソ連圏の内戦”、しかもアメリカとイギリスの支援による”内戦”なのだ。

⚫欺瞞に満ちた西欧の”道徳的態度”

 暴力的な軍事攻撃に対して、ロシアを糾弾するヨーロッパの”道徳的態度”は自然なリアクションだ。しかし、ヨーロッパの行動は無責任で欺瞞に満ちている。欺瞞の例は下記。

・最後の一人がロシア軍によって殺されるまでウクライナに武器を供給し続けること
・ロシアの天然ガスの供給路を確保しながら、つまりロシアの戦争に出資しながらロシアに経済制裁を科すこと

⚫オルガルヒへの経済制裁は無意味

 ロシアは、国家が全てをコントロールする中央集権国家だから、新興財閥オルガルヒは政治権力を持っていない。プーチンと”その取り巻き”に無用な制裁を科すことは、必要な交渉を困難にし、戦争を更に深刻化させるだけだから、無責任な行為だ。

 ロシアの残忍さを糾弾し、プーチンと”その取り巻き”を「戦争犯罪人」と名指しするのは、ヨーロッパ人が無力だからであり、自分の卑劣さを隠そうとしているからだ。

 「戦争」は醜く卑劣なものだ。アメリカはイラクに対して、まともな理由なくして戦争を始め、ロシアがウクライナでしている以上に醜悪な行為をしてきた。

⚫「ロシア恐怖症」

 ヨーロッパ人のロシア嫌い、つまり「ロシア恐怖症」は、「ロシアの問題」ではなく「ヨーロッパ自身の問題」だ。無意味になりつつある「ヨーロッパ」という政治的・通貨的なまとまりを無理に維持するために、「ロシア」という”外敵”を必要としているのだ。

 ヨーロッパ人のロシア嫌いの高まりは、ヨーロッパにとっては損失だが、アメリカにとっては「戦略的成果」だ。ロシアとヨーロッパを引き裂くことが、ブレジンスキーのようなアメリカの地政学者が想定する「国益」に叶うのだ。

⚫暴力の連鎖

 西側メディアは見落としているが、ロシアはソ連崩壊後の混乱から回復し、社会は安定に向かっている。そのことは、人口動態にも明確に表れている。

 私が今恐れているのは、この戦争に対する西側の強硬姿勢がロシアをより暴力的にしてい、「暴力の連鎖」が起こることだ。ソ連時代の暴力性がロシアに戻ることを恐れている。

 西側メディアでは、ロシア軍がウクライナ市民を攻撃し、病院を爆破し、子どもたちを殺す映像が連日流されている。しかし、ここで行われているのは「戦時の情報戦」であることも忘れてはいけない。

 ある国への攻撃は、その国の悪い側面を引き出し、それがその国に対する攻撃を増大するという悪い連鎖を必ず引き起こす。例えば、中東では比較的リベラルで民主的だったイランの体制が、アメリカの厳しい制裁によってむしろ抑圧的なっている。

⚫「消耗戦」が始まる

 事態が落ち着いてくれば誰もが冷静に考え始める。その考えるための要素をいくつか挙げてみる。最初に考えられるのは「消耗戦」の状態になることで、そこでは軍事面より経済面が重要になる。今回の場合は、具体的な注目点は中国がロシアをどれだけ支援するかだ。

⚫中国はロシアを支援する

 「人間は基本的に賢明である」という前提で思考を始めるが、もしアメリカのウクライナにおける軍事行動が成功したら、アメリカは、北朝鮮、台湾、ベトナムに対しても似たような行動を起こすだろうし、ロシアが倒されれば、どんな形にせよ、次に狙われるのは中国だと、中国の指導層は考えているはずだ。だから中国は、公の場ではロシアに交渉を求めながらも、最終的にはロシアを支持すると考えている。

 つい1ヶ月前まで「中国こそ第一の敵」と名指ししていたバイデンが、中国に対して「ロシアへの武器の供給や支援はするな」と脅迫したのは、あまりに滑稽だ。

⚫米国と西側の経済は耐えられるのか

 歴史的に非常に興味深い状況に立ち会っている。というのは、経済的に相互に依存している世界において、ブロックに分割された対立が生じているからだ。例えば、西側諸国が行っているロシアの対外資産凍結は「所有権の否定」だが、これは反資本主義的思想を世界に広めることだ。

 問われるべきは、ウクライナがロシアの侵攻に耐えられるか、ロシアが経済制裁に耐えられるか、ではなくて、「これほどグローバル化した危機に、アメリカと西側はどれほど耐えられるか」なのである。

⚫経済の真の実力はGDPでは測れない

 「付加価値の合計」であるGDPは、第二次大戦後のある時期までは「実際の生産力を測る指標」として意味を持ちえたが、産業構造が変容してくるなかで「次第に「現実を測る指標」としてのリアリティを失っていった。モノではなくサービスの分野では現実から乖離した評価がなされやすい(例えば訴訟の多い米国の弁護士費用のGDPへの計上額)。

⚫ウクライナ相手に貿易赤字だった米国

 アメリカは、いわば「幻想の経済大国」だ。というのは、実物経済の面では世界各地からの供給に全面的に依存していて、軍事と金融面での世界的覇権を握っているのは、むしろこの実物経済を現実として維持するためだからだ。

 ここで2002年の著作『帝国以後』(邦訳 藤原書店)の引用がなされているが省略して結論だけ言えば、アメリカは、ソ連崩壊から間もないウクライナを相手に貿易赤字となるほど、生産力(⇒ウクライナが必要とするモノの)を持たない国だった、ということだ。

⚫経済における「バーチャル」と「リアル」の戦い

 ウクライナ戦争が「グローバル化=世界戦争化」し、さらに「消耗戦」となることで生じつつあるのは、経済における「バーチャル」と「リアル」の対立だ。

 経済における「バーチャル」と「リアル」の対立は、「アメリカ」と「中国・ロシア」の対立とも言えて、これはかっての冷戦とは異なる新事態だ。というのは、経済的な耐久力が問題となる「消耗戦」が、グローバル経済の相互依存の世界で生じているからだ。

⚫対露制裁で欧州は犠牲者に

 これから特に注目すべき点は、ヨーロッパがどう振る舞うかだ。アメリカとロシアの経済的な結びつきは殆ど無いが、ヨーロッパとロシアは経済的相互依存関係にある。ヨーロッパとロシアは、経済協力を大いに進めるべきなのだ。

⚫米国の戦略目標に二重に合致したウクライナ

 冷戦終結後、アメリカは、ロシア問題に関して、下記のような二つの目標を持っていた。ウクライナはこの二つの戦略を同時に達成する地域だった。

・第一は、ロシアの解体
・第二は、冷戦の対立構造を維持し、ユーラシア西部(ヨーロッパとロシア)の統一の阻止

 もう一つの目標がアメリカにはあった。それは自国の経済(消費)を維持するために、世界の富への統制力を確保すること(政治・軍事)。だからアメリカは、世界の人口と経済活動の主要部分を担うユーラシア大陸に戦略的関心を持ち続けた。その結果を一言で表現すると次のようになる。「世界の安定にアメリカが必要、というレトリックが真に言わんとするところは、世界の不安定がアメリカには必要」ということだ。

⚫NATOと日米安保の目的は日独の封じ込め

 NATOや日米安保は、極論すれば、アメリカの支配力を維持するためのもので、「反ロシア」という立場に立つ動機の大部分も、同様だ。

⚫現実から乖離したゼレンスキー演説

 戦線が安定し、事態が収束してくると、ヨーロッパは、自分たちが無駄な犠牲を払っていることに気付くだろう。ゼレンスキーは、「ウクライナの次にロシアに狙われるのはあなたの国だ」と言って、ヨーロッパ諸国を戦争に引き込もうとしているが、実際の戦況は、その主張と正反対だ。

 そもそも、ロシアがウクライナ以外の領土への侵攻を考えているとは、思えない。すでにその人口規模から見て広大すぎる領土を抱え、その保全だけでも手一杯だ。

⚫エストニアとラトビアという例外

 エストニアとラトビアにはロシア系住民が住んでおり、彼等が「二流国民」という扱いを受けている面がある。更にラトビアは、皮肉にも1917年の選挙で、ロシア国内でもっともボルシェヴィキへの投票率が高かった地域だ(⇒つまり、この二つの国に対してロシアが侵攻する動機がある)。

 だが、感情の波が収まった時点で、アメリカとヨーロッパの根本的な利害の違いが現れるだろう。ロシアとの経済的パートナーの代表であるドイツは、この世界大戦の終息のために重要な役割を担うだろうことが期待される(⇒エストニア、ラトビアにロシアが侵攻する場合には尚更、世界大戦終息に向けてドイツが重要な役割を果たすだろう、と)。

⚫予測可能な国と予測不能な国

 西側メディアの報道とは違って、ロシアは一定の戦略(⇒すでに説明したように、防衛戦略として)的合理性に基づいて行動している。ヨーロッパの行動も、中国の「合理的」で「暴力的」な行動も、ある程度予測できる。予測不能なのは、まず、国家機能が十分でないウクライナ。今回の行動には非合理的な無謀な試みが多い(クリミア奪還や給水阻止、ドンバス地方の奪還の試みなど)。

⚫ポーランドの動きに注意せよ

 非合理的な行動で地政学的リスクになりかねないもう一つの国が、ポーランドだ。それは歴史的事実から判断される。

⚫最も予測不能な米国

 最も予測不能で多大なリスクとなり得るのがアメリカの行動だ。プーチンを中心とするロシアとは対象的に、中枢がないからだ。その判断根拠は以下。

・アメリカの”脳内”は、雑多のものが放り込まれた”ポトフ”のようだ
・「ロシアの体制転換」など、無責任で予測不能な失言を繰り返すバイデンの思考は不可解
・トランプも対露外交を展開出来なかった
・アメリカは誰が権力を握っているのか分からない
・思想的には、ミアシャイマーのような冷静な現実主義者がいる一方で、破壊的な対外強硬策を後押ししているビクトリア・ヌーランドのようなネオコン国務次官もいる
・断固たるロシア嫌いのヌーランドは、ウクライナ情勢の担当官で、2014年の「クーデター」にも深く関与したと指揮されている
・「反ロシアの動き」はバイデン以前から始まっていたが、ここにきて攻撃的な反ロシアの"核”(⇒ネオコン達)が一層可視化されている状態になっている
・ネオコン達はロシアの体制、プーチン体制の破棄を望んでいる

(補足:ネオコン=新保守主義。1970年頃から米国で盛んになった政治思想で、国防・安全保障、競争原理に基づく自由市場、キリスト教信仰、伝統的価値観・規律の復活、を重視する。ネオは保守に転向したという蔑視の形容詞だがネオコンの政策は保守的ではない)

⚫「ネオコン一家」ケーガン一族

 ネオコンはブッシュ時代は共和党側だったが、反トランプになった後はヒラリー・クリントンと民主党側に転じている。(⇒以下、最近のアメリカの政策影響を与えているネオコンの例として、ケーガン一族が紹介されている)

・ロバート・ケーガン:ネオコンの代表的論客。国務長官ビクトリア・ヌーランドの夫。「世界の民主主義の行方は、すべてアメリカ軍にかかっている」と妄想している
・フレデリック・ケーガン:ロバート・ケーガンの弟。軍事専門家。
・キンバリー・ケーガン:フレデリック・ケーガンの妻。戦争研究所所長。(⇒戦争研究所は、連日示されている「ロシア侵攻図」作成している)
・ドナルド・ケーガン:ロバート・ケーガンとフレデリック・ケーガンの父。ギリシャ古代史の大家。軍事史の専門家。
・アメリカの「反ロシア」のネオコンの中心部に、皮肉にも「ロシア的家族構造」が見える

 アメリカ地政学のエスタブリッシュメントの世界には、緊張や迷い、そして不確実性が見られる。一方に合理的で現実主義的な傾向があり、他方に直接行動主義的で過激なネオコン的傾向があり、どちらが最終的に主導権を握るのか分からない。暴力的であってもロシアが求めていることは明確である。一方、アメリカが考えていることは一向に見えこないのは世界の安定にとって大きなリスクとなっている。

⚫世界を”戦場”に変える米国

 アフガニスタン、イラク、シリア、ウクライナと、アメリカは軍事介入を繰り返してきた。それは、脅威になる隣国もない世界一の軍事大国だから戦争で間違いを犯してもアメリカ自身は侵攻されるリスクが無いからだ。

 共産主義が崩壊してから、アメリカは世界中で戦争状態を維持させてきた。自ら関わった地域を全て”戦場”に変えた。「戦争」はアメリカの文化やビジネスの一部になっている。

 アメリカは「世界を戦争へと誘う教育」を世界各地で進めているかのようだ。アメリカによる「戦争教育」を受け入れるかどうかこそが問われるべきだ。

⚫米国の”危うさ”は日本にとって最大のリスク

 こうしたアメリカの行動の”危うさ”や”不確かさ”は同盟国日本にとっては最大のリスクだ。当面、日本の安全保障に日米同盟は不可欠だとしても、不必要な戦争に巻き込まれる恐れがある。アメリカの行動の信頼性を吟味する必要がある。

 アメリカに頼り切って良いのかどうという疑いがあるかぎり、日本は核を持つべきだ。日本の核保有は、以前から提案してしたが、その必要性は更に高まっている。そもそも「核とは何か」を改めて冷静に考える必要がある。

⚫核を持つとは国家として自律すること

 核を持たないことは、他国の思惑やその時々の状況という”偶然”に身をまかせることだ。アメリカの行動が”危うさ”を抱えている以上、日本が核を持つことで、アメリカに対して自律することは、世界にとっても望ましい。

 ウクライナの危機は、「核」が「通常戦」を抑止するのではなく、「核」を保有すすことで「通常戦」を行うことが可能なのだという、新たな事態が生じた。日本にとっては、中国がロシアと同じような行動に出るかもしれないという、新たな状況が生まれたのだ。

⚫「核共有」も「核の傘」も幻想にすぎない

 核抑止力が有効であることを前提すれば、「核共有」も「核の傘」も幻想であり、選択肢は自国で核保有するのしないのか以外はない。核の不均衡は、それ自体不安定要因となる。中国に加えて北朝鮮も核保有国になる状況下では、日本の核保有は地域の安定になる。

⚫米国に対する怒り

 日本が抱えるジレンマは、ヨーロッパに対しても問いかけるべきだ。ヨーロッパで壊滅的な政策を進め、ヨーロッパで戦争を始めたアメリカに対して、私は今、怒っており、アメリカに対する敵意は絶対的なものになった。

⚫西洋は「世界」の一部でしかない

 ヨーロッパで起きている戦争のために日本がロシアに制裁を行うのは滑稽だ。西洋が「世界」を代表していとい考えはうぬぼれであり、国連総会での対ロシア決議やG20での議論を見ても、世界の大半の国はロシアの勝利を望んでいるようにも見える。彼等は「西洋の傲慢さ」にうんざりしている。

⚫長期的に見て国益はどこにあるか

 この危機が去った後も、中国とロシアは同じ場所に存在している。見失ってはならないことは「長期的に見て国益はどこにあるか」だ。ロシアと良好な関係を維持することは、地政学的条件を含めてあらゆる面において日本の国益に適う。